「スペインタイル」と検索すると、手描きの絵付けタイルを扱う工房や陶芸教室の情報が数多く出てきます。ですがスペインタイルという言葉は、モロッコのゼリージュやクエルダセカという技法、コラベルという独特の形状のタイルと合わせて、同じイスラム由来の系譜のタイル文化として語られることが多い言葉です。
スペイン・モロッコ・地中海タイルの系譜を整理したうえで、ゼリージュやエンカウスティック(セメントタイル)との違い、コラベルタイルなど形状による分類、そして現代の輸入磁器質タイルを玄関・キッチン・洗面所などの場所別にどう選ぶかまでを紹介します。

1. モロッコタイル・地中海タイルとは?スペインタイルとの関係を整理する
スペインタイルとは、8世紀以降にイスラム文化とヨーロッパの装飾美術が融合しながら発展した、スペイン発祥の装飾タイルの総称です。イベリア半島に伝わったイスラムの幾何学文様と釉薬の技術が土台にあり、同じ技術は同時期に北アフリカのモロッコにも伝わりました。
モロッコで独自に発展した装飾タイルが「モロッコタイル」、スペイン・モロッコ・南欧を横断する地中海沿岸の装飾タイル文化をまとめて指す言葉が「地中海タイル」です。つまり3つの呼び方は、同じイスラム由来の文様・釉薬文化を、産地や地域でどう切り取るかの違いにすぎません。
スペインタイルの特徴は、幾何学模様や草花文様を鮮やかな色彩で表現する点にあります。単色の絵付けタイルから複数色を組み合わせた文様タイルまで幅が広く、次の章で紹介する技法によって表情が大きく変わります。

2. スペインタイルの基礎:産地・文化・技法
スペインタイルづくりの中心地は、アンダルシア地方のセビリアや、カスティーリャ・ラ・マンチャ州のトレドです。なかでも代表的な技法が「クエルダセカ(cuerda seca、乾いた紐の意)」です。
これは模様の輪郭を油分を含んだ顔料で縁取り、その枠の中に釉薬を流し込んで焼成する技法で、輪郭部分の油分が焼成時に燃え尽きて溝状の線として残るため、隣り合う色の釉薬が混ざらず、くっきりとした立体的な仕上がりです。
もう一つの代表的な技法が「マヨルカ(マジョリカ)焼き」です。白い錫釉を下地にして、その上から手描きで彩色する方法で、クエルダセカのような輪郭線を使わず、筆致そのものが柄になります。
いずれも1枚ずつ手作業で仕上げる工芸品としての性格が強く、色幅や文様の揺らぎそのものが味わいになっています。
スペインタイルの代表的なブランドについては、タイル ブランドガイド|MAINZU-小形スペインタイル専門でカタログとあわせて紹介しています。


3. ゼリージュ・エンカウスティックとの違い
スペインタイルの周辺には、名前が似ていたり同じ空間で使われたりするために混同されやすいタイルがあります。系譜を整理しておくと、輸入タイルを選ぶときの判断基準がはっきりします。
3-1. ゼリージュ(ゼリージュタイル)とは:モロッコの手工芸
ゼリージュ(zellige)は、モロッコのフェズを中心に発展した装飾タイルの技法です。
クエルダセカが1枚のタイルに複数色を描き分けるのに対し、ゼリージュは単色に焼き上げたタイルを職人が手作業で幾何学形状にカットし、星型や多角形を組み合わせて壁面いっぱいのモザイク文様を組み上げます。
1枚に絵を描くというより、無数の小さなピースを組み合わせるモザイク工芸に近い技法です。

3-2. エンカウスティック(セメントタイル)
エンカウスティック(セメントタイル)は、ゼリージュやクエルダセカとは製法が根本的に異なります。
顔料を混ぜたセメントを型に流し込み、高圧プレスと自然乾燥で固める工法で、釉薬をかけて窯で焼成する陶器・磁器のタイルとは別物です。文様がタイルの厚み全体に入るため、表面がすり減っても模様が消えにくいという特徴があります。
19世紀のヨーロッパで広まり、旧植民地を経て北アフリカにも定着したため、モロッコの内装ではゼリージュとエンカウスティックが同じ空間に使われることも珍しくありません。ただし両者は素材も製法もまったく異なる別のタイルです。

3-3. 現代の「〜調」量産タイルとの違い
クエルダセカ、ゼリージュ、エンカウスティックはいずれも手工芸としての性格が強く、色幅・寸法差・納期のばらつきが避けられません。
一方、現在Tile Capsuleが取り扱うような輸入タイルの多くは、これらの意匠を磁器質タイルの表面に再現した「〜調」の量産タイルです。文様の再現にはインクジェット印刷や型押しが使われ、寸法精度が安定し、色ごとの仕上がり差も抑えられます。見た目が近くても性質は異なるため、床や水回りに使う場合は「〜調タイル」側の吸水率やすべり抵抗(R値)を確認して選ぶ必要があります。
4. 形状で選ぶ:正方形・六角形・コラベル
スペイン・モロッコ系のタイルは、色柄だけでなく形状でも個性が出ます。代表的なのが次の3つです。
- 正方形・長方形の平物:もっとも一般的な形状で、幾何学模様や無地カラーを組み合わせて使います。
- 六角形:モロッコ・地中海系のタイルで人気の形状で、複数色を組み合わせるとハニカム状の連続文様になります。
- コラベルタイルとは、ランタン(提灯)のような独特の輪郭を持つモザイクタイルの呼び名です。コラベルタイルという名前で調べられることも多い形状で、伝統的な釉薬づかいによってレトロな雰囲気を演出できます。単色使いはもちろん、複数色を組み合わせた張り方でも使われます。
Tile Capsuleが扱う輸入タイルは正方形の平物が中心ですが、形状の異なるタイルを部分的に組み合わせることで、スペイン・モロッコらしい表情をより強調できます。
5. 使用場所別の選び方
5-1. 玄関
玄関の床や框まわりにスペイン・モロッコ系タイルを使うと、来客の目に触れる最初の場所で印象を強く残せます。床に使う場合は、すべり抵抗(R値)が明記されたタイルを選ぶと安心です。
屋外の土間やアプローチに使う場合は、耐凍害の有無を施工前にメーカー・販売店へ個別に確認してください。
5-2. キッチンのバックスプラッシュ
コンロ周りや壁付け水栓まわりの壁面(バックスプラッシュ)は、油はねや水はねを拭き取りやすい施釉タイルとの相性がよい場所です。幾何学カラーのタイルを壁一面ではなく腰壁やニッチだけに使うと、費用を抑えながらスペイン・モロッコらしい表情をつくれます。
5-3. 洗面所・パウダールーム
洗面台まわりの壁は面積が小さく、色柄の強いタイルでも冒険しやすい場所です。複数柄がミックスされたモザイクタイルは、1枚ずつ張るだけで模様に動きが出るため、洗面所・パウダールームの壁の一部使いに向いています。
5-4. パティオ・屋外テラス
屋外のパティオやテラスの床には、防滑性と耐凍害を備えたタイルを選ぶ必要があります。ただし防滑仕上げ(ANTI-SLIP)の輸入タイルでも耐凍害はシリーズごとに異なるため、屋外用途では施工前にメーカー・販売店へ個別確認することをおすすめします。
5-5. 表札・ネームプレート
スペイン・モロッコ系の小型タイルは、表札やネームプレートのDIY素材としても人気があります。単色の正方形タイルに文字を組み合わせたり、コラベル形状のタイルを縁取りに使ったりすると、既製の表札にはない手仕事の雰囲気を出せます。
6. Tile Capsule 推奨製品
現代の輸入タイルの中から、スペイン・モロッコの意匠を取り入れやすい4製品を紹介します。
各製品の意匠の背景と展開カラーは次のとおりです。
6-1. Nanda Tiles ALHAMBRA
名前の由来になったアルハンブラ宮殿は、幾何学文様の装飾で知られるスペイン・グラナダの代表的な建築です。カラーはLAYLA・TESSINA・YASMINAの3色で、落ち着いた色柄が壁面のアクセントに使いやすいシリーズです。


6-2. Nanda Tiles AMANTINA
AMANTINAは、複数の柄をミックスした構成のモザイクタイルです。カラーパックはALESSIA・ARIANNI・COVINGTON BLUE・GABRIELLA・GIORGIA・ISABELLA・MANUTTI PEARL・PALADIAN ARDESIA・RAFFINATO SILVER・ROSEWOOD COPPERの10種類。洗面所やパウダールームの壁の一部に張ると、モザイクならではの色の揺らぎが出ます。


6-3. Harmony CASABLANCA
CASABLANCAは、モロッコの都市カサブランカにちなんだコレクションです。色名にはANFA・ATTIA・FARISSI・FIDA・GAZA・KENZI・MALIK・RIALTO・TORRES・ZIANEと、現地の地名や言葉を思わせる響きが並び、WHITEを含めて11色展開です。


6-4. Mainzu FONDANT(KASMA BLANC / KASMA NATURAL)
スペインのMainzu社が手がけるFONDANTは、ナチュラルなハンドメイドの趣をコンセプトにした施釉磁器質タイルのコレクションです。カラーはKASMA BLANC・KASMA NATURALのほか、BLANC・BLUE・BRAVE・COTTO・CUERO・DECOR BLANC・DECOR NATURAL・FUSSION・NATURALがそろいます。床に使う場合はANTI-SLIP仕上げが適しています(仕上げ別のR値の詳細はメーカー・販売店に個別確認を推奨)。


| 項目 | ALHAMBRA | AMANTINA | CASABLANCA | FONDANT |
|---|---|---|---|---|
| ブランド | Nanda Tiles | Nanda Tiles | Harmony | Mainzu |
| サイズ | 200×200/210×250mm | 100×100mm | 125×125mm | 200×200mm |
| 厚み | 10mm | 9mm | 8mm | 8.4mm |
| 面状 | MATT/SATIN | SATIN/SATIN & GLOSS | MATT | ANTI-SLIP/MATT with GLOSS |
| 防滑(R値・DIN 51130) | R10 | 表記なし | 表記なし | R11 |
| カラー数 | 3色 | 10種のカラーパック | 11色 | 11色 |
| 向く場所 | 壁面のアクセント | 洗面所・パウダールームの壁 | 壁面のアクセント | 床(ANTI-SLIP仕上げ) |
実際の空間での使い方は、オリエンタルタイル LIVORNO|スパニッシュレストラン&バル施工事例でご覧いただけます。
よくある質問
スペインタイルの特徴は何ですか?
幾何学模様や草花文様を鮮やかな色彩で表現する点が特徴です。クエルダセカやマヨルカ焼きなど、1枚ずつ手作業で仕上げる技法によって、色幅や文様の揺らぎそのものが味わいになっています。
スペインタイルの作り方(クエルダセカ)はどのようなものですか?
クエルダセカは、模様の輪郭を油分を含んだ顔料で縁取り、その枠の中に釉薬を流し込んで焼成する技法です。焼成時に輪郭部分の油分が燃え尽きて溝状の線として残るため、隣り合う色の釉薬が混ざらず、くっきりとした立体的な仕上がりです。
スペインの有名なタイルにはどのようなものがありますか?
クエルダセカ・マヨルカ焼きによる絵付けタイルのほか、モロッコのゼリージュ、ランタン形状のコラベルタイルなどが代表的です。いずれもアンダルシア地方やモロッコの都市を中心に発展してきました。
スペインタイルはなぜ人気があるのですか?
鮮やかな色彩と幾何学文様が、無機質になりがちな水回りや玄関に温かみを与えるためです。近年は現代の輸入磁器質タイルが手工芸の意匠を「〜調」として再現し、寸法精度やすべり抵抗を確保しながら取り入れやすくなったことも人気の背景にあります。
ゼリージュとの違いは何ですか?
クエルダセカは1枚のタイルに複数色の釉薬を描き分ける技法であるのに対し、ゼリージュは単色に焼き上げたタイルを手作業でカットし、星型や多角形を組み合わせてモザイク文様を組み上げる技法です。製法も工程もまったく異なります。
まとめ
スペインタイル・モロッコタイル・地中海タイルは、いずれも8世紀以降のイスラム文化に由来する同じ装飾タイルの系譜を、産地や地域で呼び分けた言葉です。
クエルダセカ・ゼリージュ・エンカウスティック(セメントタイル)はそれぞれ製法が異なる別の技法です。見た目が近い「〜調」の量産タイルを選ぶ際は、吸水率やすべり抵抗(R値)など使用条件を個別に確認してください。
現代の輸入磁器質タイルは、これらの意匠を「〜調」として再現しながら寸法精度とすべり抵抗を確保しているため、玄関・キッチン・洗面所など場所ごとの条件に合わせて選べます。
Tile CapsuleではNanda Tiles ALHAMBRA・AMANTINA、Harmony CASABLANCA、Mainzu FONDANTなど、色柄の異なる輸入タイルを取り扱っています。実際の色幅や質感はサンプル請求でご確認ください。
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